裏千家インターナショナル・アソシエーション(UIA)

2009年度研修旅行報告



  「一碗からピースフルネスを」−私どもUIAの設立趣旨の中心をしめるこの言葉と、再度正面から向き合い、改めて深く心に刻む機会となった研修旅行でした。
  本年度は、韓国ソウルにて10月23日・24日開催の「第5回東アジア茶文化シンポジウム」参加と呈茶協力を中心に、10月22日〜26日と5日間の行程となりました。

  渡航時はすでに新型インフルエンザが両国で流行しはじめ、主催関係各位には遂行にあたり大変神経を使われたことと拝察しますが、おかげさまで、UIA23名の参加者は、皆、楽しく熱心にすべての行事に参加でき、無事に帰国できました。何よりも貴重な学びの機会をお与え下さいました大宗匠様、裏千家淡交会様、お世話下さいました国際部様、そして韓国側受け入れの中央大学らご関係各位に心よりお礼申し上げます。

  今般のシンポジウム詳細を末尾に記しますが、大まかにいって第1日目は日本・中国・韓国における茶文化の相互比較・美意識というものをテーマに、2日目は茶文化を通じた三国を中心とする東アジアの歴史的交流や社会とのかかわり、特に今、そして近未来の世界平和構築における茶道精神の可能性をテーマに、それぞれプレゼンテーションやディスカッションが設けられていました。
  2日間では、理解し消化するのにまったく時間が足りないほど充実した内容のプログラムであり、いずれも素晴らしい講師陣で大変有意義なシンポジウムでした。




  第1日目最初のプログラムである朴先生の基調講演は、本シンポジウムのテーマを忠実に即したもので、日・韓・中三国における茶の歴史とその意義、各自の茶文化を端的かつわかりやすく解説され、特に日本の茶道は、静的ではあるが幽玄美の分野で文化の相互理解の重要な外交的成果をもたらすとの示唆に、その後のプログラムへの関心がぐっと増した気がいたします。
  また1日目午後には関根先生が、中国古代にまでさかのぼって考察された「茶の精神」における古代中国の儒教的精神の影響を紹介され、目から鱗の示唆をいただきました。本発表を拝聴しながら、茶道の精神をたどるには、鎌倉よりもっと古い時代からの各国の思想文献や歴史的背景を考察すべきとの思いにかられ、またこれら三国の古代からの親密性というか親和性を改めて実感した次第です。

  第2日目は、国際機関で活躍されている方々が、それぞれのご経験や見聞を通じた東アジア国家間の対話・平和構築の方法を、茶文化ベースに、提言されました。北朝鮮に対して率直な意見を求める場面では、相手の立場も配慮した深い洞察と建設的な意見交換がなされ、改めて、茶道の精神を知りえる方々の懐の深さを感じました。しかし、なんといっても、強烈に印象に残ったのは、韓国の金先生のBC3〜4世紀にまでさかのぼった三国間の歴史的考察と、茶道を通じた平和構築への力強い提言です。
  金先生は、長い歴史の中で三国が、ある時は被害者になり、またある時は加害者になりを繰り返してきたが、どの国の史記もほとんどがその国の視点、かつ次の政権下で作成されているという事実ゆえに、それぞれ原型とするものに違いがあるから、三国の歴史観は違い、またその歴史観同様に和の思想にも違いがあること、そしてこの相違を打破するのには、茶道の哲学「一期一会」という思想、今あるこの一時を感謝し、共有することが重要だと強調されました。
  金先生の発言の端々に、大宗匠様の、戦後すぐから今日までの長きにわたる茶道を通じた平和への活動とその強い信念に対する深い尊敬と同志的共感があらわれていました。
  眞に知恵があり、平和を念ずる心をもった善良なる有識者らが、茶道を通じて国を超え、つながりえたこと、そのありがたいご縁の下に、今回この素晴らしいお話を伺える機会をいただいていることに、深く感謝した次第です。
  この2日間のプログラムでは、三ヶ国の大学生も参加され、共通する漢字文化への考え方、相互の歴史認識のことなど質問や発言をされました。本シンポジウムは、三国間だけでなく、その次世代への茶道精神の伝承も含む未来への架け橋となったように感じます。
  色々示唆の多いテーマで真剣な討議が繰り広げられる一方で、昼食時には、韓国支部の方々に心のこもった呈茶をいただき、私どももお手伝いさせていただく機会を得、短い時間ながら交流させていただきました。また2日目夜の大宗匠主催晩餐会では、美味しい食事、素晴らしい音楽とともにご一緒した皆様とゆったりと交流することもできました。硬軟とりあわせて、よく考えられた企画で充実した研修となりました。




  日本は折しも誕生したばかりの民主党鳩山首相が「東アジア構想」を打ち出し、また前原国土交通大臣が「ハブ空港」発言をし、今後益々東アジア、とくに地理的にも経済的にも、韓国との関係強化は最重要課題のひとつになってくると感じます。
  時代より先んじて、すでに第5回を迎えた本シンポジウムの先見性と意義深さに感銘し、今後も継続を心から願いつつ、感謝とともに本研修の報告を終了します。





<第5回東アジア茶文化シンポジウム・パネルディスカッション詳細>
  10月23日(金)東アジア茶文化シンポジウム  於:中央大学校

    基調講演  :中央大学 朴教授「茶からなる文化の相互理解」
    研究発表(1):創造学園大学 戸田教授「茶道の美意識」
    研究発表(2):中央大学 林教授「茶文化と和歌思想」
    研究発表(3):平安女学院大学 関根客員教授「儒教と茶の湯の美意識」
    研究発表(4):中国芸術研究院 高研究員「中・日両国の茶陶器文化を語る」
    研究発表(5):京都学園大学 筒井教授「千利休の美意識」
    講  評   :千 玄室大宗匠

  10月24日(土)パネルディスカッションー東アジアの文化と平和 於:新羅ホテル
    基調講演  :米国アメリカライシャワーセンター カルダー所長「東アジアの平和と文化」
    意見発表(1):元国際連合 明石事務次長「東アジアの歴史と将来」
    意見発表(2):中国国際連合協会 陳副会長「東アジアの平和、通らなければならぬ道」
    意見発表(3):中国日本友好協会 井副会長「文化交流を強化し、相互理解を増進し、
              東アジア地域の共同発展を推進する」
    意見発表(4):韓日文化交流会議 金委員長(韓国側)「東アジアの文化と平和」
    総  評   :千 玄室大宗匠


(文責:細見純子)